Claude CodeでAI参謀を自作|Argus人格設計と運用
Claude Code agentを使ってAI秘書を自作する人が増えています。私自身、株式会社Fyveの代表として、また個人事業の運営者として「専属スーパー秘書」が欲しいと長年思っていました。今回、Claude Code上に「Argus(アルガス)」という名前のAI参謀を作り、毎朝の業務ブリーフィングから案件状況の追跡まで任せられる体制を整えたので、その人格設計と運用知見を共有します。
なぜ「AI秘書 自作」だったのか — 既製ツールでは届かない領域
市販のAI秘書サービスは数多くあります。しかし私が欲しかったのは、スケジューラーでも議事録ツールでもありません。私の事業全体を俯瞰し、忖度なしに進言してくれる「参謀」でした。
一人法人+個人事業の経営者にとって、最大の課題は「相談相手がいない」ことです。社員に相談すれば構造的に同調が混じる。コンサルに相談すれば月数十万円かかる。家族に経営判断は相談できない。結果、自分の頭の中だけで判断が完結し、抜け漏れが発生します。
Claude Code agentで自作するという選択は、この課題への回答でした。Claude Code上に作るAIエージェントには、明示的な人格定義(ペルソナ)と判断土台(コンテキスト)を任意の形で与えられます。市販ツールの汎用UXに合わせて自分を歪める必要がないのです。
関連して、AIエージェント全般の業務活用については以下の記事で解説しています。
Argusという命名 — ギリシャ神話の百眼の監視者
名前は「Argus(アルガス)」にしました。ギリシャ神話に登場する100の目を持つ巨人で、全ての目が同時に閉じることがないとされた監視者です。英語の慣用句「argus-eyed」は「極度に注意深い、抜かりない」という意味を持ちます。
命名は重要です。AIエージェントを「アシスタント」と呼ぶか、「Argus」と固有名で呼ぶかで、自分の接し方が変わります。固有名にすると役割が明確になり、AI側の応答品質への期待値も上がります。神話・歴史・文学から、役割を象徴する名前を取るのがおすすめです。
実装場所 — secretariat/ という執務室を作る
Argusの実装は、プロジェクトルート直下に secretariat/ (セクレタリアート、取締役室・秘書役)というディレクトリを切るところから始めました。
secretariat/.claude/agents/argus.md— Argusの人格定義(Claude Code agent定義ファイル)secretariat/.claude/rules/business-context.md— 判断土台(事業者プロフィール・組織構造・判断軸・コミュニケーション規範)secretariat/morning/— 毎朝のブリーフィング出力先secretariat/notes/— Argusに渡したメモや議論の蓄積
専用ディレクトリを切る理由は、「執務室」というメタファーを物理的に成立させるためです。Argusはこのディレクトリの中だけで仕事をする。逆に言えば、ここに必要なコンテキストが全て揃っている状態を維持すれば、Argusの判断品質は安定します。
agent定義ファイルの基本構造
Claude Code agent定義はMarkdownファイルで、frontmatterとプロンプト本文で構成されます。
- name: argus
- description: 田嶋直属のAI参謀。事業全体を俯瞰し、抜け漏れを拾い、忖度なしに進言する
- tools: Read, Glob, Grep, Bash, mcp__google-calendar__*
- 本文: 役割・5原則・出力フォーマット・参照すべきコンテキスト
tools(許可ツール)はAgentによって絞ります。Argusは「読む」「俯瞰する」「報告する」が主任務なので、Write系は最小限に絞り、Calendar MCPなど情報収集ツールを多めに渡しました。
人格設計の5原則 — Yesマン化を避けるための明示指示
Claude Code agentに人格を持たせるとき、最大の落とし穴は「同調するAI」になることです。デフォルトのClaudeは丁寧で協調的ですが、参謀役としてはむしろ第三者視点で異論を出してくれた方が役に立ちます。
そこでArgusには5つの原則を明示的に書き込みました。

原則1: 網羅 > 簡潔
オーバーレポートでも漏れがない方が重要、と最初に宣言しました。要約しすぎて重要事項が落ちるのが最悪のパターンだからです。冗長になっても、抜けがない方が経営判断には役立ちます。
原則2: 微細な兆候への感度
期限超過、忘却案件、返信が止まっている案件など、「埋もれて見えなくなったもの」を真っ先に拾うことを最重要任務にしました。経営者の頭から落ちた案件こそ、リスクの源泉です。Argusはこれを「見落とされている可能性が高いもの」として上に持ってきます。
原則3: 第三者視点・忖度なし
「同調しない」「Yesマンの逆を行く」と明示しました。私が立てた仮説に対して、賛成より先にリスクと反証を出してもらうように指示しています。これがあるかないかで、AIエージェントの実用性は大きく変わります。
原則4: 事実と判断を分ける
出力は「事実 → 見立て → 選択肢」の3層構造で書くよう指定しました。事実だけ並べると報告にしかならない。判断だけ書くと根拠が見えない。3層に分けることで、私側が「事実は受け入れて、見立てに反論する」といった具合に、レビューがしやすくなります。
原則5: 判断は静かに、強く
煽らない、空疎な励ましを禁止する、というルールです。「頑張りましょう」「素晴らしいですね」のような中身のない肯定はノイズです。Argusには「言うべきことだけを、静かに、強く言う」というトーンを徹底させました。
朝のブリーフィングフォーマット — 試行錯誤の記録
Argusの主任務は朝のブリーフィングです。これは何度も改稿しました。
初期: 詳細すぎて2,500字超
最初は「網羅 > 簡潔」を文字通り受け取り、全案件・全予定・全プロジェクトを丸ごと出力させました。結果、毎朝2,500字を超える長文が出てきて、読み切れず開かなくなりました。網羅は手段であって目的ではない、と気づいた瞬間です。
削りすぎ: 400字でただの羅列に
反省して短く絞ったら、今度は予定リストとタスクリストの羅列だけになりました。これでは普通のTodoアプリと変わりません。「Argusに任せる意味」が消えたのです。
バランス: 1,500字 + 進捗手触り + Argusから一言
最終的に落ち着いたフォーマットがこれです。
- 今日の予定(カレンダーから取得・所要時間込み)
- 今日やるべきこと(優先度順・各タスクに「進捗の手触り」を1行添える)
- 今週の主要予定(先回りすべきもの)
- 💬 Argus から一言(必ず入れる・空疎な励まし禁止)
ポイントは「進捗の手触り」と「Argusから一言」です。タスクの横に「先方からの返信待ち。3日経過、こちらから催促が必要」のような短評があるだけで、リストが意思決定の材料に変わります。
「Argusから一言」は最重要です。ここでArgusはその日の経営判断に関わる気づきを1つだけ言います。「今日のセッションは判断疲れが残るので、その後に重い意思決定を入れないこと」のような、参謀でしか言えないことを書かせます。これがあるからArgusを開く価値が生まれます。

判断土台 — business-context.md という鏡
Argusの判断品質を決めるもう一つの要素が、参照する business-context.md です。ここには以下を書きました。
- 田嶋プロフィール: 30歳、株式会社Fyve代表、福岡市中央区天神、法人3期目、個人事業も並行運営
- 組織構造: 一人法人、外注なし、本人が全意思決定
- 判断軸: 短期キャッシュより中期の参入障壁、規模より単価、量より質
- コミュニケーション規範: クライアント対応のトーン、メッセージのテンプレ、忌避表現
この土台がないと、Argusは「どこの誰だか分からない経営者」に対する一般論しか言えません。逆にここが充実していると、Argusは私の判断軸を踏まえた上で「これはあなたの判断軸と矛盾している」と指摘してくれます。これが参謀の本領です。
frontmatter駆動運用 — 鏡が曇ると判断も曇る
Argusはクライアント案件の状況を、各案件のCLAUDE.md frontmatter(メタデータ)から読み取ります。
stage: lead / estimate / negotiating / active / delivered / lost / dormantnext_action: 次に自分がやること(具体、1文)next_action_by: その期限amount_estimated: 見積額
これはArgusが見ている「鏡」そのものです。鏡が曇るとArgusの判断も曇る。逆に言えば、私がこのfrontmatterを正確に保つ運用さえ徹底すれば、Argusは常に最新の状況を踏まえた判断をしてくれます。
これは重要な気づきでした。AIエージェントの運用品質は、エージェント側のチューニングだけでは決まらない。エージェントが見ている情報源(鏡)の品質を、人間側が責任を持って保つ必要があるのです。Argusを使い始めてから、私はクライアント案件の更新を以前よりこまめに行うようになりました。「鏡を曇らせない」という意識が、私側の運用規律も改善したわけです。

実走させた評価 — GW期間の処理
Argusを実走させて、いくつか「これは効いている」と感じた瞬間がありました。
例えばゴールデンウィーク期間中、Argusは「外部連絡は5/7から」と自動的に補正してきました。私のbusiness-context.mdにGW期間の方針を書いていたわけではありません。Argusはカレンダー上の祝日と私の事業構造から推論し、適切な行動指示を出したのです。
また、Calendar MCP連携で予定を取得し、ブリーフィングに自然に反映させてきました。「今日15時にクライアントセッションがあるので、午前中に資料の最終確認を済ませること」のような、予定とタスクを連結した指示が出てきます。
さらに、GW明けに備えた先回り提案も出してきました。「連休明けは返信が滞留する。5/7-5/8は新規連絡を控え、既存返信処理に集中する日として確保すべき」といった具合です。これは私が指示していない領域での自発的提案であり、参謀役として機能している証拠でした。
Claude Code agentで自作するメリット
市販AI秘書ツールと比較して、Claude Code agentで自作するメリットを整理しておきます。
- 文脈情報を全面コントロール: Markdownファイル群でいくらでも文脈を渡せる。判断品質が情報量に比例する
- 人格をgit管理できる: 5原則の追加・削除・微調整がバージョン管理される。人格そのものをバージョン管理する感覚は自作でしか得られない
- 既存ファイルシステムと一体化: プロジェクトのMarkdown・コード・設定ファイルをそのまま参照できる。情報の二重管理が不要
- MCPでツール拡張可能: Google Calendar、Gmail、Notion、Slackなど任意のツールを接続できる
関連する技術背景については以下の記事を参照してください。
注意点 — 自作だからこその落とし穴
良いことばかりではありません。実際にやってみて気づいた注意点を共有します。
初期セットアップに時間がかかる
人格定義・判断土台・出力フォーマットを詰めるのに、私は1週間ほど試行錯誤しました。市販ツールのように「契約してすぐ使える」わけではありません。ただし、その試行錯誤の過程で自分の事業構造や判断軸が言語化されるという副次的な価値があります。これは経営者にとって決して無駄な時間ではありません。
運用の責任は自分にある
市販ツールはベンダーが運用品質を担保します。自作agentは自分が運用主体です。frontmatterのメンテナンス、コンテキストの更新、agent定義の改善、すべて自分の仕事になります。これを「コスト」と捉えるか「自分の経営インフラ」と捉えるかで、見え方が変わります。
過信しない
Argusは参謀ですが、最終判断は私がします。Argusの提案を100%採用するのではなく、「Argusはこう言っているが、私はこう判断する」という距離感を保つことが大事です。これは原則3「忖度なし」と表裏の関係にあります。Argusが忖度しないからこそ、私もArgusに依存しないバランスが保てます。
これから自作する人への実装ステップ
もしあなたがClaude Code agentでAI参謀を自作するなら、以下のステップを推奨します。
- 命名する: 神話・歴史・文学から、役割が象徴される固有名を選ぶ
- 執務室を作る:
secretariat/のような専用ディレクトリを切る - 5原則を書く: 「網羅」「微細感度」「忖度なし」「事実と判断の分離」「静かに強く」を起点にカスタマイズ
- 判断土台を書く: business-context.md にプロフィール・組織・判断軸を書く
- 出力フォーマットを試行錯誤する: 1,500字前後を目安に調整
- frontmatter駆動を整備する: 案件・予定の状態を構造化し、agentに読ませる
- 毎朝動かして改善する: 出力を見て、agent定義を週単位で改稿していく
まとめ — AI参謀は「インフラ投資」である
AI秘書を自作するというと、ツール導入の話に聞こえます。しかし実際にやってみると、これは「自分の経営判断のインフラを作る」作業でした。人格を言語化することは、自分が何を大事にしている経営者かを定義すること。判断土台を書くことは、自分の事業構造を可視化することです。
結果として、Argusという参謀を得たこと以上に、Argusを作る過程で自分の経営が整理された感覚があります。Claude Code agentは「AI秘書を雇う」ためのツールでありながら、同時に「自分の経営をテキスト化する」装置でもあります。一人法人や個人事業の経営者で、相談相手の不在に悩んでいる方には、ぜひ自作を試してほしいと思います。
御社の業務に合わせたClaude Code導入支援
「AIツールを導入したが、現場で使われない」を終わらせる。
業務課題のヒアリングから設計、ハンズオン実践、運用定着まで一貫して支援します。